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CO2Therapy-炭酸ガス療法-

炭酸ガスによる創傷治療

炭酸ガス(二酸化炭素)による美容効果のメカニズムで書いたように、炭酸ガスによる新陳代謝の活性化は、主に赤血球からの酸素放出が増加し、組織中酸素分圧が上昇することにあると考えられます(ボーア効果)。炭酸ガスで傷が早く治るのも、基本的には同じ働きによるものと考えられます。

ところで、炭酸ガスで傷が早く治る、というからには、それを証明するデータが必要です。一般的に、傷に効果があるというには、医薬品や医療用具の場合は臨床試験が必要です。また、基礎実験としては、例えば、一定数の動物に全く同じ傷を作り、炭酸ガス外用剤を塗った場合と、成分はほとんど同じだが、炭酸ガスを発生しない外用剤を塗った場合を比較しなければなりません。また、他の治療薬や治療方法と比較する必要もあります。得られた結果は論文にまとめ、学会誌などに投稿し、審査を経て掲載されれば、確かに傷を早く治す、とお墨付きを得られたことになります。
実際に炭酸ガスパックで難治性皮膚潰瘍モデルの動物実験は行いましたが、残念ながら実験量が少なく、また他の事情もあって論文化には至っていません。

炭酸ガス外用剤の進化形として、当社では炭酸ガス発生型創傷被覆材技術を開発し、バイオベンチャーの先輩であるアンジェスMGに技術供与、治療用製品として開発中です。しかしながら、効果や安全性等についてはまだ開示できません。炭酸ガスによる創傷治療に関しては、自分や社員などが炭酸ガスパックを傷に使ったら、こんな結果になった、というのもありますが、これでは世間話程度にならざるを得ません。あくまで、アンジェスMGが炭酸ガス発生型創傷被覆材を医療用途で開発中、という事実から、炭酸ガスの創傷治療に対する効果を類推していただくしかありません。

炭酸ガスパックなどの創傷治療効果をさらに類推していただくために、二つの事例を引用します。

1. 炭酸ガス入浴剤による褥創*治療

炭酸ガス入浴剤は、一部の看護師達の工夫によって褥創治療に使用されていました。褥創は血行不良(組織の圧迫壊死)が原因ですから、炭酸ガスで血行を促進すれば改善が期待されます。治療結果は論文にもまとめられ(日吉俊紀;人工炭酸泉浴剤による褥創治療について.総合リハ17(8):605−609,1989)、安全性にも問題なさそうです。具体的な治療法としては、少量のぬるま湯に大量の炭酸ガス入浴剤を無理やり溶かし、高濃度の人工炭酸泉を作ります。これをガーゼなどに含ませ、1日数回、褥創に貼りつけます。数ヶ月で難治性褥創が改善したとの報告がなされています。

*褥瘡と褥創について......褥は寝るときに敷く敷物などを表す「しとね」の意味。褥瘡という言葉は、寝たきり患者などにできる、いわゆる床ずれで、かさぶたができた治りにくい傷「瘡」から来ています。しかし、いまや床ずれは適切な処置により治せるものなので、褥創という言葉に変えられつつあります。

<解説>

東ヨーロッパを中心に、炭酸泉が循環器系疾患の治療に使われています(B.Hartmann, et al.,小動脈閉塞性疾患のCO2温泉療法:生理と臨床、人工炭酸泉1(1), 010~016,1989など参照)。傷の治療にも有効なことが知られており、炭酸水の炭酸ガス濃度が1,400ppm以上あると、高い有効性が期待できるといわれています。炭酸ガス入浴剤を使用して得られる炭酸水の炭酸ガス濃度は通常100ppm程度ですが、それでも褥創には有効です。
炭酸ガスパックのような外用剤や、炭酸ガス発生型創傷被覆材は、炭酸ガス濃度が炭酸泉などとは単純に比較できません。これらは、使用中に炭酸ガスを発生しつつ、経皮吸収させるものです。しかも、単に発生した炭酸ガスを経皮吸収させるのではありません。熱力学的観点から、発生した炭酸ガスが効率的に経皮吸収されるように設計しています。特に、炭酸ガス発生型創傷被覆材の場合は、炭酸ガスの気泡はほとんど発生しません。炭酸ガスが気泡を形成しようとする自由エネルギーやエントロピーなどを勘案し、炭酸ガスの経皮吸収が増大するように製剤設計を行っています。

2. 人工炭酸泉製造装置を使用した高濃度炭酸水によるリウマチ性関節炎治療

炭酸ガス入浴剤で炭酸水を作った場合、炭酸ガスの濃度が低いことが治療への応用で問題です。それを解決する方法の一つが、人工炭酸泉製造装置です。これを使用すれば、1,000ppm(大気圧下での炭酸ガスの飽和溶解濃度)を越える高濃度(過飽和)の人工炭酸水が作れます。人工炭酸水は、リウマチ性関節炎に対し症状改善効果が報告されています(入來正躬ら、会議発表「人工炭酸泉浴の生理作用」、炭酸泉誌 2(2), 030~035、1999)。これを使えば、褥創などの難治性皮膚潰瘍の改善が炭酸ガス入浴剤以上に期待できます。本装置は、既に医療用具として認可され、褥創に対する認可は得られていないようですが、人工炭酸浴機能付温浴療法用装置として販売されています。

<解説>

人工炭酸水は、高い治療効果が期待できる高濃度の炭酸ガスを含みますが、炭酸ガスが水と反応して炭酸を生成し、人工炭酸水はやや強い酸性(pH3.5程度)になります。酸は傷にしみるため、人工炭酸水は、創傷治療効果は高くても、患者に苦痛を与えるおそれがあります。
また、炭酸水は炭酸ガスがどんどん空気中に逃げていくため、濃度を保つためには常に炭酸水に炭酸ガスを補給する必要があります。
さらに、褥創などの治療を考えた場合、必要な部位のみに一定時間以上炭酸水を使用することは困難です。例えば寝たきり患者の仙骨部褥創の治療のためには、患者をベッドから動かして人工炭酸泉に入浴させるなどの手間がかかります。

炭酸ガスパックのような外用剤や、炭酸ガス発生型創傷被覆材はpHが比較的自由に調整できるため、目的に応じて製剤のpHを設定しています。
また、これらは使用中に炭酸ガス(二酸化炭素)を持続的に発生するため、炭酸ガスの補給は不要です。
さらに、これらの製剤は塗るだけや貼るだけで必要な部位のみに炭酸ガスを経皮吸収させることができます。
なお、直接的な比較は困難ですが、これらの製剤は熱力学的原理により、効率的に炭酸ガスが経皮吸収されるため、炭酸水の限界を超えた量と速度の炭酸ガスの経皮吸収が可能と考えられます。

以上、大変回りくどい表現ですが、炭酸ガスパックのような外用剤や、炭酸ガス発生型創傷被覆材が、褥創などの難治性皮膚潰瘍や一般創傷などに対してどの程度効果が期待できるか、が少し想像していただけたものと思います。2004年9月に学会で講演させていただいたときには、チャンスとばかりに、まとまりのないデータを参加者に披露させていただきましたが、条件が整い次第、創傷等に対する効果や安全性をお伝えしたいと思います。


     ※ 本コラムの内容は特定の商品の効果効能・安全性を保証するものではありません。

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